志水と冬海。
愛らしい勇気を。
※まだ全力で途中です。導入すら終わってません。データを紛失しそうなのでココに避難させてます。
それはある日の放課後のこと。
「………ぁ……」
驚いてしまった。誰もいなさそうな場所を探して森の広場を散々うろついた挙げ句にやっと閑静な場所を見つけたというのに、そこには先客がいた。いや、それだけなら驚きはしない。そっと立ち去るだけだが、彼女、冬海笙子が思わず小さく声をあげて立ちすくんでしまったのは、その先客が……
「寝て…る…?」
木の幹にもたれかかるとか、せめて携帯枕を用意するとかでもなく傍目には急病で倒れているかのように寝入っていたからだ。さすがにその辺りは彼女も慣れてきたので昔のように救急車を呼ばんと飛び出すことは無くなった…が。さすがに茂みの向こうで人が倒れているのを見たら動揺はする。
今この瞬間もすやすやと眠っている彼―志水が、倒れているのか寝ているのか見分けるのは簡単だ。楽譜か楽器が側に置いてあるか否か。案の定志水の側には次のセレクション用らしい楽譜と、書き込みでもしたのだろう。筆記用具が散乱していた。
冬海はその場で立ち去っても良かった。だが、探さなければ見つからないようなこんな場所で一人すやすや寝ている志水を置いていくのは何となく後ろ髪がひかれる思いがあり、それに放っておけばここで夜まで寝ていて風邪でもひきかねない、とも考えて冬海はおそるおそる志水に近付いた。……とはいえ幸せそうに寝ている少年を揺り起こす決心はまだできていないのだが。
とりあえず散らかった楽譜を彼女らしくも順番通りにそろえ、志水を起こす以外に特にやる事が無くなってしまってから、彼女は側の木の根元を見つめた。そこにはクラリネットケースと楽譜を閉じたファイルがお行儀よく置いてあり、冬海は憂鬱そうに溜め息をついた。
そもそも人気の無い場所を求めたのは、誰かに聞き咎められる事なくクラリネットの練習をするためである。しかし、それはおかしい。閑静さなら音楽科校舎の練習室の右に出る場は無い。つまり。
彼女は最初、人前で練習しようと思ってわざわざ森の広場まで出てきたのだ。その後は人の多さや、楽器を構えただけで視線が集まる事に恐れを成して人目を避けて逃げてきたのである。
彼女は今、自己嫌悪の極みにいた。
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