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「 真・三國無双 」
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曹仁とホウ徳。
戦の先に目指すもの。目的と理想、手段と結果の交差。


戦の無い世を待ち望み、望むだけでは得られぬと悟った時…武器を持ち、戦場に出た。

その理想はどこまでも美しいが、綺麗事だけではない。事実彼は、乱世の奸雄などと評される曹操の元でその理想を追っている。

曹操に付き従うのは、単に同族だからという理由だけではない。

彼なりに現実を見て、戦の無い世を作る人物を見定めたまでの事である。

事実、仁徳を詠う劉備を、彼はあまり良く思っていない。

理想とは実現してこそ。

溺れては意味が無い。

それが、彼の矜持。


その日は宴だった。戦勝会だ。喧騒を好まない彼は、そっと場を抜け出した。酒は弱くは無いが、好きでも無い。飲み方で言えば、一人静かに飲むほうが好きなのである。あのような騒がしい中で飲む気には、とてもなれなかった。

その夜は満月で、道は明るく照らされていた。
手元に灯りが無くても外を歩くのに問題は無さそうである。

風が適度に涼しく、月見酒としゃれ込むのに良さそうな夜である。

抜け出すときに酒瓶のひとつでも持ってくるべきだったか、と彼は思ったが、まぁ後の祭り。
月見だけでも十分だろう、と、彼、曹仁は、しばし夜のそぞろ歩きを続ける事にした。


歩き始めて一寸ばかりのち。
「…ほう、これは。」
思いがけない人物に会った。
「今宵は宴と聞いているが。どうなされた、曹仁殿。」
あちらも夜の散歩を洒落込んでいるらしい。戦場で鎧姿を見ることが多いが、今宵は珍しく軽装である。…まぁ、それを言ったら自分もそうか、と曹仁は内心で呟いた。
「…貴殿も察しが悪い。見ればわかろう。抜け出したまで。…そう言うそちらはどうなのだ、ホウ徳殿。」
彼、ホウ徳は、微妙な間を置いて口を開いた。
「…拙者のような新参が祝いの席にいては場も白けるだろうと思いましてな。遠慮いたした。」
「それは…。殿はかような些細な事は気になさらん。」
「曹操殿はそうであろうな。しかし、宴の席は曹操殿のみというわけでは無い。」
「………。」
「確かに曹操殿の元には様々な人材が集まり、故に人の出入りが激しい。が、しかし長く仕える者も大勢いる。…おぬしのようにな。」
曹仁は何か言い返そうとした。が、思いとどまった。このやり取りには、きっと益は無い。

二人は、なにとなく共につらつらと夜の庭を歩き、月の事など、とりとめのない事を話した。曹仁が先ほどの話題を別方向にそらしたのだ。
しかし、不意に、曹仁にある疑問が沸いた。それをホウ徳にぶつけるのは、先程の話題を蒸し返す事になる。少し躊躇したが、しかしその疑問は、今突然沸いたというよりは、前々から聞きたかった事で、聞く機会が無かったから忘れていたのを、ふと思い出した、そういうものだった。
この機会を逃すのも惜しく、思い切って、彼は口を開いた。

「…時にホウ徳殿。貴殿は何故に魏に下った。かの錦馬超の元にいたのだ。付き従ったままでも良かったのではないか。…ここで独り居るよるも、馬超傘下として蜀に居る方が肩身の狭さが違うであろう。」

客観的に言って、かなり失礼な質問である。しかし、彼は聞かずにおれなかった。

ホウ徳を見やると、月を眺めている。思案でもしているのだろうか。何せ感情が表にでないから、なんとも思惑を読みづらい。

「…それがし、武人として大成する事を生きる目的としているが…その為に乱世が長引くのを望むわけではない。武とは乱世に活力を得るものでは無く、戦無き世を導く為に使われるもの。その過程で磨くものかと思っている。故に曹操殿に下った。それがしの武、乱世を鎮める御仁の下で振るいたいと思ったまで。」

「馬超はその器では無いと?」

「馬超殿は武人として尊敬している。あの比類無き武は、今の世で並ぶ者はなかなかござらん。…しかし、天下を取る器ではない。天下とは武のみで取れるものではない。」

…曹仁は、ホウ徳に対してあからさまでは無いにせよ「新参者」という感情が無いわけでは無かった。それは曹操軍において古参であるが故に仕方の無い感情であり、彼に限らず多くの人間が持つものだ。ましてホウ徳は敵対勢力であった西涼からの参入者である。西涼と曹操軍との幾度かの戦で、彼に散々に破られた将も少なくは無いのだ。彼に対して複雑な感情が渦巻くのは無理もなかろう。

…しかし。

自分はこの将を誤解していた。曹仁は今、それを悟った。ホウ徳が語る「理由」は、曹仁が長く追い続けていた「理想」に肉薄している。…むしろ、カタチが違うだけで、本質は同じである。

この魏軍において、武を追求するもの、中原を覇する事を追い求める者、様々な人物がいるが、自分と同じ理想を語り合える者は、実はあまりいない。この乱世で誰もが持ちうる望みでありながら、それを掲げるものは、少ないのだ。

長く曹操に付き従い、幾たびの戦場を越え、ここまで戦い抜いてきた。ひたすらに「理想」を追い、時には孤独であったが、それでもひたすら。

ここまでやってきて、やっと本当の意味での同士が見つかった気がする。魏軍で夏侯淳らと共にもっとも長く戦ってきた最古参。初めて見つけた同士が、ついこの間戦ったばかりの、新参の将とは。

…それでもいいのだ。乱世を鎮めたいと思う心、武の使いどころを正しく識る心を同時に持つ人物が、自分以外にもいたのだ。それだけで。

いつ、この国は平らかになるのか。誰にもわからない。天下に知られる智者、諸葛亮でもわからないだろう。わからないからこそ、戦えばそれだけ早く終焉が訪れると信じている。

だから、戦い続ける。この身が滅びようと、それが平和への礎となるならば、それで…。

「…いかがした、曹仁殿」

急に黙り込んだ曹仁に、ホウ徳は視線を向けずに聞いた。ふと我に返る曹仁。

「すまない。」

「いや、謝罪を要するような事でもあるまい。」

しばしの沈黙。語るべきことは語り終えた、と、二人の将は悟った。

「…自分はそろそろ宴席に戻る。いくら殿が寛大な御方とて、あまり長く外すのも申し訳ない。」

「そうか、某はしばらく月見を楽しむことにする。…中原も西涼も、月の美しさは変わらぬものだな。」

ホウ徳は天上に輝く月を見遣った。

「左様か。…殿が天下を統一する日も近い。同じ月を西涼で見れる日も来よう。」

去り際に。故郷を離れ戦う武人に、ささやかなる気遣いを。

しかし、

「そうか。…いや、どうであろうな。」

気遣いをやんわりと払いのけ、西涼の武人は月明かりの中去っていった。

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