忍者ブログ
書き屑倉庫
「 花に桜の・・・ 壱 」
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フリーエリア

応援中
最新コメント
プロフィール
HN:
冬子
性別:
非公開
ブログ内検索
アクセス解析
OTHERS
Powered by 忍者ブログ
Templated by TABLE ENOCH


×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

遙かなる時空の中で4

忍人と千尋。

忍人ED後の千尋の話。

※EDネタバレを含みます。

EDから2、3年の設定です。





夢を見た。

うすべにのもやが頭上を覆うなかで、あの人と語り合う夢。

・・・否、あの人を捜し惑う夢。

―――――――

「また、だ・・・。」

気がつくと、私は満開の桜の下に立ち尽くしていた。幹の茶、花びらの桃、足元には緑。いかにも春めいた色彩の中、私は一人だった。

・・・否、あの人もいたのだ。

「千尋。」

言霊だけが私の耳の奥でゆらめいて、それが一層私の孤独を際立たせる。

「春になったら、またここへ来よう。ここは桜の名所だから、きっと見事な眺めだろうな。」

忍人さん、何を言ってるんですか。桜、こんなに綺麗に咲いているじゃないですか。見えないんですか。私たちは今、約束の通りにここへ・・・。

「いや、しかし君が王となれば臣下と花見など難しいかもしれんな。」

貴方と一緒に過ごせるならば、私はどんな努力も惜しまないです。いつもより頑張ってお仕事して、それくらいの時間は作ってみせるし、周りだってしっかり説得します。だから、忍人さんがそんな事言わないで。

「まあ、今言っても詮無き事だな。とりあえず前へ進まねば。」

もう戦いは終わりました。だから私はここにいて、そして貴方は・・・。どこへ行くって言うんですか。お願いです、どこにも行かないで。ずっと側にいて・・・。

どこでもない場所で響く言霊に耐え切れなくなって、私は歩みだす。あてどない桜の園を、あの人を捜して。式典用の礼服を身に纏ったまま、裾が汚れるのも気にせず彷徨い、あの人の名を呼び続ける。返事があると。きっと、呼べば優しい笑みと共に応えてくれると、ありえない望みに縋って、狂人のように、樹から樹へと歩を進める。

「忍人さん。」

しかし、名前を呼ぶたび、彼の姿を得るどころか言霊さえも遠ざかっていく気がして。

「・・・忍人さん!!」

生者から死者への呼びかけ・・・現から幻への干渉は、儚い夢を壊してしまうのかもしれない。

そうだとしても、私はあの人を追い求める事を止められないのだ。私の愛する人。生涯で、きっと、ただ一人の・・・。




言霊が、波の引くがごとくに去っていく。後には、耳が痛くなるくらいの静寂が残った。桜の降る音まで、聞こえてきそうな静かな花園。しるべを無くして、私は再び呆然と立ち尽くすしか無かった。

愛する人に会いたいと思う気持ち。一緒にいたい、側にいてほしいと希う気持ち。年頃の女の子ならば誰もが持ちうる小さな願い。・・・それは、私から永遠に奪われた願いであり、今となっては、呪い。

満開の桜の下。訪れえない幻。遠く響く愛し人の声は、決して像を伴わない。

―――――――

気がつくと、私は桜の園から橿原宮の自室へと戻ってきていた。・・・いや、戻るも何も無い。夢を見ていただけなのだから、私はずっとここにいた。魂だけが未練の情に翻弄されて、ありもしない幻を作り出していた、ただそれだけ。

夢では満開だったが、花はもう散ってしまっただろう。ずっと宮にいるので確たる事はわからない。ここの桜は、狭井君が全てよそへ移してしまった。愚かな事だと今は思う。でも、あの頃の私はその是非すら考えられないほどに弱っていた。大切な物の喪失に耐え切れず、常に押しつぶされそうな悲しみを抱いて日々を過ごしていた。

悲しみに暮れる中で想うあの人との日々。しかし想えば想うほど、確かとなっていく感情があった。

―――こんな事じゃ、いけない。

私を破格の器と言ってくれた、あの人を裏切れない。彼が剣と命を捧げた王が、こんなめそめそと泣き暮らしていては、彼の忠誠に傷がつく。

戦の無い国、大切な人を理不尽な事で失ったりしない国へ、私が導いていく。彼の期待を、彼の夢を・・・彼の命を裏切ってはいけない。私は、あの人の王なのだから。


そう決めた。前だけ向いて、国に殉ずると。豊葦原に尽くす事は彼に尽くす事。だから、・・・でも。

「忍人、さん・・・。」

やはり、私は貴方が最初に言った通りにただの少女だから。決意はたゆとう夢に溶けて、ありもしない幻に夜な夜な身を焦がす。

夜、寝室に一人で居るとどうしても考えてしまう。誰にも看取られず独りで逝った彼の事を。

想うと涙が溢れ、もうどうしようも無くなる。

―――ごめんなさい。将がこんな、夜ごとに取り乱して、みっともないですね。でも、でも・・・。

近いうち、いずれ、もっとちゃんとできるようになります。だから、今だけは・・・生涯で愛するただ一人の貴方を想って、涙を流す事を許してください。

国の事をしばし忘れて、貴方の事だけ考える時間を取る事を、どうか、許してください・・・。
PR
PREV | 11 12 18 17 16 14 13 15 10 8 | NEXT
- HOME -
[PR]