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「 真・三國無双 」
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孫策と尚香。
辺り一面の草畑にて、兄妹の語らい。


「策兄様!」
花が駆けてくる。一面の緑に、赤い花が一輪。綺麗だ、と孫策は思った。それが自分の妹であると気づいたのは、花が自分を兄と呼んだからだ。
「こんな所で何してるの?武芸の稽古?」
今日は得物は持ってきていない。館に居るのが何となく息苦しくなり、外の空気を吸いたくなって、気がついたら近くの草原に来ていた。ここは木すらまばらな、視界を遮るものがほとんどない開放感にあふれた場所で、孫策にとって息抜きにぴったりの場所であった。
「全く…兄様は自分の立場ってものをわかってないわ。護衛も付けずにこんな…無用心よ。」
「お前に言われたくねぇなぁ、尚香。お前だって護衛いねぇじゃねぇか。呉のお姫様がよ。」
「も~、私のこと姫って言わないでよ。柄じゃないって自分でもわかってるんだから。」
尚香は恥ずかしがり、口を尖らせた。ほほえましい兄妹の会話である。
「んで、俺は息抜きだけどよぉ、お前はどうしたんだ。こんな何も無い所に。」
「私?私は兄様を追いかけてきただけよ。館から出てくのが見えたから。」
事も無げに、尚香は言った。
「何ぃ!?お前、あそこからついてきてたのか!?」
「えぇ、そうよ。…ふふっ、その様子だと気づいてなかったみたいね。私の尾行術も上達したかな~。」
「そんな事しねぇで素直に言えばいいじゃねぇか、尚香」
「そんな正直な事したら、撒くでしょ、策兄様」
図星を突かれたらしく、孫策は苦笑いした。

「昔っからそうよね、兄様って。」
「何がだよ。」
「ふいっとどっか行っちゃうの。何してても、策兄様がどっか行きたいって思ったら、全部放り投げて、ふいっと。昔小さかったころに、権兄様と三人で遊んでると策兄様だけ急にいなくなっちゃったりして。私たちを放ってよ?一度や二度じゃ無かったなぁ。私は泣いちゃって、権兄様をよく困らせてたっけ。」
「権の苦労人属性はその頃からか。」
「…そもそもの原因は策兄様って事をお忘れなく。」
「…すまん。」
「その頃からね、不思議だったの。策兄様は、私たちを放ってどこに行っちゃうんだろうって。えへへ、今日やっと十年越しの念願が叶いました。」
「………お前。」
「もうこんな事はしないわ。私も多少は成長して、一人になりたい時って言うの?そういうの…わかるつもりだから。ただね、一度だけでいいから、策兄様について行ってみたかったの。…ごめんなさい。私の単なるワガママで。」

しばらくの間、二人の間に会話は無かった。しかし、尚香にはわかった。孫策が別段怒ってはいない事、むしろ感慨深くさえ思っている事も。
「なぁ、尚香。」
孫策が口を開いた。
「この草原の向こうには何があるんだろうな。」
地平線を見つめるその瞳は、さながら少年。
「俺は、この先が見たいんだ。この先を見れたら、次はまたその先。俺は、天下を統一したいっていうより、単にまだ見たことの無い土地を目にしたいだけなのかもしんねぇな。」
空を見上げる。果てはなく、故に終わりも無い。
「…兄様らしいわ。」
この人は刹那に生きている。尚香はそう感じた。だからこそ力強く、そして儚い。
「そろそろ帰るか。二人して黙っていなくなって、今頃騒ぎになってんだろ。」
「そうね、みんなを困らせちゃいけないわ。行きましょ、策兄様。」
地平線に背を向けて、二人は並んで歩き始める。和やかな談笑の合間に、何でも無い事のように、孫策は言った。
「また来ようぜ、尚香。そうだな、今度は権も連れてってやるか。アイツだけ仲間外れじゃあかわいそうだ。」
孫策は笑った。尚香もつられて笑う。今度はお弁当を持って行きましょうなどと、軽口を叩きながら。

軽口を、叩きながら。

彼女の目尻には、涙。
尚香は、泣いていた。
無性に、泣きたくなったのだ。

泣きながら、笑った。幸せいっぱいに、笑ったのだった。

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