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「 真・三國無双 」
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馬超と劉備。
朝方、黒と陽の解け合う青闇の中遠乗りに行く二人のおはなし。



目が、覚めた。
そもそも早起きな方ではあると思うのだが、今日に限って早すぎる目覚めである。

窓の外を見る。外はまだ暗い。日の出までまだ随分ありそうな、空模様。
暗いのだが、闇ではない。外には、空間が藍色に染まったような、早朝特有の空気があった。

これはもう、二度寝は無理か。

このまま再び目を閉じても有意義な時間は過ごせないだろう事を悟った彼は、簡単に身支度を整えると、厩へ向かった。

「…おや、馬超ではないか。」
馬の調子などを見ていると、後ろから不意に声をかけられた。身支度などから察するに、ここに来た目的は同じようだ。
「そなたも遠乗りに?」

馬超は驚いていた。こんな早朝に厩に来る人などいないと思い込んでいて、すっかり気を緩めていた。厩の中でも離れた場所に居たとはいえ、声をかけられるまで人の気配に他に気付かなかった。相手が誰であろうと、気配に気付かなかったのは不覚である。そして同時に、自分は変わったな、とも思った。
「…いかにもその通りです。しかしどうしたのですか。こんな朝早くに。」
まぁ、自分にも言える事だが。馬超は、心の中で苦笑した。
「なんとなく目が覚めてな。いや、いつもこんなに早いわけじゃない。今日に限ってやけに早かったのだ。」
「……そうですか。いや、実は俺もです。今日だけこんなに早く。いつもと何か違う朝ってわけじゃないのに、不思議です。」
馬超は、たまたま同じ日にたまたま似たような時間に目が覚めて、たまたま二人とも遠乗りに行こうと思った事に、なにやら宿命じみたものを感じた。ここまでお膳立てされて、じゃあ俺は行きますから貴方もご勝手に、では、運命の女神の顔に泥を塗る。
「これも何かの縁でしょう。どうです、ご一緒に。護衛も兼ねて。」
「おお、いいのか、すまない。お前一人で行くつもりだったのだろう?邪魔では無いのか?」
「何を仰いますか。全然構いません。」
この人は…。本来護衛を付けてしかるべき立場なのだ。むしろ自分と行き合わせたことはかなり幸運だった。しかし、それが彼の美徳であり、だからこそ、自分は…
「…では、参りますか、劉備殿。」


遠乗りとはいえ、いくらなんでも日が昇るくらいには戻らなければいけないわけで、そんなに遠くへは行けない。二人は、成都の城壁の外、馬場の辺りを駆けた。
「馬超。この先にちょっとした丘があって、見晴らしが良いらしいのだが…行ってみぬか?」
劉備が言った。
「そんな所があるのですか。是非行きましょう。」
先ほどまでは馬超が先導気味に走っていたが、一転して劉備が前へ出た。かの地は割と近くにあり、少し駆けただけで、着いた。
「素晴らしい景色だな。」
劉備が感嘆の声を上げた。そこからは、成都の城郭が見渡せた。まだ早い時分なので、街は眠っている。藍色の空気に包まれて朝もやがたなびき、空には、太陽に取って代わられるのを待つ消えかけの月が出ていた。
「幻想的だな。」
再び劉備。馬超はと言うと、眼前の景色に感嘆もしていたのだが、それ以前に疑問がひとつできていた。
「あの…劉備殿?」
「何だ、馬超。」
「この場所は、誰かに?」
「あぁ。その通りだ。」
劉備が蜀の地を得てから、まだ日は浅い。民政の雑務に忙殺されて、そうそう遠乗りに行けるものではないし、遠乗りに行けるほど朝早く目が覚める事は滅多に無い、と先程自分で言っていた。そもそも雑務の合間を縫って出かけたとしても、このような穴場的な所は、この辺りの地理に詳しくないと、中々見つかるものではない。
「ここの事は黄忠に教えてもらってな。年寄りの早起きもたまにはいい事がある、なんて言っていたが…。蜀取りの戦で見た黄忠の弓さばき、忘れようにも忘れられぬ。まだまだ前線でがんばってもらわなければな。」
劉備はいたずらっぽく笑った。
黄忠とは、多少の時期の差はあれど馬超と同じく割合に最近劉備に降った者である。いわば新参であるわけだが、そんな人物の言った、「景色の良い場所」などという雑談もいいところな内容も、この人は気に留めているのか…。
馬超が劉備に降った最大の理由は寄る辺が無くなったからである。最大の寄る辺たる西涼を失い、それでも曹操に対するにはどこかに降る必要があった。最初は五斗米道を頼ったが、結局劉備の元で落ち着いた。最初は、曹操に対するためだけに降ったという意識が強かった。が、馬超は気付いたのだ。彼だけが、自分を異端と見なさなかった。仲間として、暖かく迎えてくれたのだ。その暖かさは、長く西涼の盟主として孤独な戦いを繰り広げてきた馬超に取って、初めて触れるようなものであったし、また、長く求め続けていたものでもあったような気がした。

この人の、下ならば。

丘から城郭を見下ろす。降った当初は、みじめだった。曹操に一矢報いようという復讐心だけで、立っていた。西涼の地、友と家族、全てを失い、自分に残ったものはその復讐心だけだった。

しかし。

この人の下ならば、自分は、再び…。

決意を新たに。自分の横で、美しい景色を子供のようにはしゃぐ人。この人に、いや、このお方に、天下を。いままでは自分が頂点だった。担がれていたと言ってもいいが。誰かの下で、というのは馬超にとっては初めての経験であったが、悪くない、と彼は思い始めていた。

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