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「 戦国BASARA 」
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タイトル付けるの苦手なんで登場キャラとうっすらとしたあらすじだけ載っけとく方式にしまする。

佐助と幸村。
或る日、日常の一つ、故にかけがえなきもの。


「なぁ、佐助。」
ある日の昼下がり。青空、そよ風、緑のあおいきれ。いつもと何ら変わらぬのどかさが、障子越しにも伝わってくる。
真田忍の猿飛佐助は、任務の首尾を主、真田幸村に報告していた。
言うべき事を言い終えて、まさに佐助が去ろうという時、幸村の声は発せられた。
「これから、木登りに行かぬか。」

この言葉に、佐助は大いに戸惑った。何かの隠語かとも勘繰ったが伝わらぬ隠語に意味などないし、第一幸村が知ってて自分が把握してない隠語など真田家中に存在するはずもない。…一瞬の間にあれこれ思い巡らせ、やっと、
「そりゃ…そのまんまの意味で取っちゃっていいの?」
と言葉を搾り出した。
幸村の言った事そのものはいかにも奇天烈だが、どう考えてもそれ以上の意味は無いように思えた。…果たして、佐助の見込みは当たっていた。
「あぁ、せっかく良い天気だしな。」
何がせっかくなのか、わけがわからない。それにどうしてそこで木登りなのだろう、この人は。
などと佐助が内心呆れているのをよそに、幸村は上機嫌だ。
「登る木はもう決めてあるぞ。しかしおぬしには秘密だ。」

その笑顔は子供のようで、佐助は、おっかしーなぁ、この人もう十七になるんだけどなぁ、と心の中で首を傾げつつ、武家の跡取りとしてふさわしきようになどと諫言を試みようとした、が。
「む、しかし任務から戻ってすぐでは良くないな。よし、一刻後にしよう。それまで休めよ。」

話は終わった。
佐助は幸村の居室を出、
「結局俺に何も言わせなかったよ、あの人。」
と一人ごちた。
あの少々、いやかなり強引なところは昔から変わらない。「育て方を間違えましたかね。」
そんな事は無い。出会った時から既にあの強引さは備わっていた。ということは天からの授かりものなのだろう。
「…まっ、旦那の言う事を断れねぇよなぁ」
目茶苦茶な主を持って困った事だ、と言わんばかりに呟いて、佐助は自らの居室へと歩き出した。自分でも気付かぬままに、優しい笑みを浮かべて。

少しばかり後の事。
「さて行くぞ。準備は良いか」
幸村は実に上機嫌。
「はいはいっと…。で、どこに行くのさ」
佐助はと言えば、見た目少し迷惑そうにしているが、内心はその限りでないのは口元にこぼれる微かな笑みから見てとれる。
「先ほど言ったであろう。秘密だ。とにかくついて来い」言うなり幸村はきびすを返し、厩へ入っていった。
「ちょっ…旦那、馬使うの?俺は!?」
「忍の早足は馬を凌ぐと聞くが…」
真顔で問う幸村に毒気を抜かれた佐助は、
「全く…忍づかいが荒いよ、旦那」
そそくさと準備運動を始めた。

城を出て、城下町を抜け外れの森へ。道なき道をゆき、景色はめぐり、青き走馬灯が回る。忍は主の後を追う。幸村は獣道を正確な手綱さばきで進んでいく。そのまなざしに迷いは無く、ただ一点を見て、まっすぐ、まっすぐ…。

その姿に、忍は…佐助は不意に感じた遠い距離感に哀惜を見、ぞっとするような不安に襲われた。自分の早足をもってすれば追いつくのも追い抜くのも可能だ。なのに、何故こんなにも遠く、離れて近付けないのか…。

こんなの幻だ。それがわかっていても苛立ってしようがなく、埋められない距離に歯噛みしてしまう。

忍は追う。現実と幻の合間に見え隠れ主を必死で追い続ける。置いていってほしくない。共に…。


気付けば既に獣道は終わり、森の中にある小さな広場に出ていた。中心に大きな樹がある。状況が掴めても心が追いつかずに佐助は先ほど見た幻にしばし呆然としていた。

何で、あんな…。

「佐助、どうした?」

佐助の静寂が破られる。命を捧げた主の声で。佐助はようやく我に帰り、いつもの自分を取り繕う。

「あ、ごめんごめん旦那。頑張って着いた先が案外しょぼくてびっくりしちゃって。」なんて、強がり。

「嘘を言え。その顔は悩みでもある感じだ。」
幸村は真摯な表情でまっすぐ佐助を射抜く。

「なっ…な、何言ってんのさ、旦那。俺は何ともないって。それより木登りってこのでっかい奴に登るの?」
強引に話題を逸らす。本当にこの人には嘘がつけない。ごまかしもいつまできくか…。

なんて考えていると、幸村がこちらを見つめている。
「ど、どしたの、旦那。」
「佐助は覚えておらぬのか…。」
どうやら拗ねているようだ…。幸村のこういう反応は貴重だ。と、いうか可愛い。…何て、ずっと眺めているわけにもいかず。
幸村は、
「佐助が喜ぶだろうと思って連れて来たというに…これでは俺の空回りではないか…」なんてぶつぶつぼやいている。

「えっ…と…」
マズい。覚えてない。目線だけでちらりと全景を把握。森の広場に大樹がそびえる。二股に別れたその樹はかなりの樹齢があると見え、幹ががっしりしている。この立派さなら相当高くまで…高くまで?

…………………………あ

「あー、あーあー思い出した。この樹、あの時の。」

「おぉ、思い出したか!!」

幸村の表情が一転、太陽のごとき輝きを放つ。

その顔を見て最初から思い出してやりたかった、と、佐助は微かな後悔を覚えた。


事の発端はまだ幸村が幼名を名乗っていた時の事。
「弁丸も佐助のように空を飛びたい」
お子様がこんなとんでもない事を言い出した。しかもどんなになだめすかしてみても頑として譲らない。意地でも空を飛ぶと言って聞かない。空を飛ぶには飼い慣らした鳥の力が必要だが、定員はお一人様。困り果てた佐助は、城の界隈で最も高い木の頂上に連れて行くことで解決を図ったのだ。その時は図らずも日の入りの頃で、一番高い木から見る美しい夕日に、弁丸はあんぐりと口を開けていた。佐助はと言えば、そんな弁丸の間抜け面を眺めて嬉しいやらホッとするやら。帰る道すがら、話題が眺めの美しさに偏ったのは言うまでもない。

そんな思い出。他愛もない日常の一幕。



「旦那、よく覚えてたね~、こんな所」
「俺もずっと覚えていたわけじゃない。昨日この辺りを散策していたら偶然見つけてな。もういてもたってもいられなくなって今日、お前を連れて来たのだ。どうだ、懐かしかろう。」
「そ、それだけのために…?」

幸村とてひとかどの武将。佐助ほどではないにせよ純粋な自由時間などそう多く持てるものでもない。その貴重な時間を、この人はたかが一匹の忍との思い出のために割いたのだ。その事実が、とてつもなく重く、そして、何より愛しい。

前だけを見ている人。後ろを向かない人。そして、彼が振り返らないために後ろから付き従い、いつも振り返ってばかりの自分。永遠に結ばれないはずの視線は、実はとうの昔に交わっていたのだ。振り返ってばかりの自分にはわからなかった。彼から向けられる視線。暖かい情が。

距離なんてない。遠くに見えたのは蜃気楼。


俺の旦那は、ずっと側にいた。それならば、俺も…。


「…旦那。登ろっか、この樹。丁度夕日どきだと思う。」

「何を言うか。当たり前だろう。夕日に間に合うように計算して出たんだからな。」

あぁ、全く、この人は…。

がっしりとした幹に足をかける。



どこまでもついてくぜ、旦那。


佐助はひとりごちると、樹を登っていった。幸村と共に、上へ、上へと。
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